ヘロデは占星術の博士(学者)たちを秘かに呼び寄せ、 星の現れた時期を確かめた。そして 「行って、その子のことを詳しく調べ、見つかったら 知らせてくれ。わたしも行って拝もう」 と言ってベツレヘムへ送り出した。 かれらが王の言葉を聞いて出かけると、東方で見た星が 先だって進み、ついに幼子のいる場所の上に止まった。 博士たちはその星を見て喜びにあふれた。 家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。 かれらはひれ伏して拝み、宝の箱を開けて、 黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた。ところが 「ヘロデのところへ帰るな」 と夢でお告げ(黙示、つげ)があったので、別の道を通って 自分の国へ帰って行った。 (マトフェイ(マタイ)福音書10:25-37)
ヘロデは悪意、隠している魂胆をもって、三人の博士に頼みました。
それは王としての権威、圧力があっての、強圧的な依頼だといってもよいでしょう。なぜなら福音書2章の後半には、三人の博士にだまされたことを知り激怒したヘロデが、軍隊を動員して、ベツレヘム周辺の二歳以下の男の子をすべて殺害したことを記録しています。
博士がヘロデをだましたというのは、おそらくヘロデが博士を追わせた尾行者を振りきったということでしょう。
博士はヘロデの依頼、言葉を、身の危険を承知のうえで拒否、断固として聞き入れませんでした。
夢のお告げ、正教会は「黙示(つげ)」と表現します。
この黙示とはなんでしょうか。
夢の中で博士は、なにを見、なにを聴いたのでしょうか。
博士が聴いたヘロデの言葉はまさに、エバ(イブ)の聴いたヘビ、悪魔の言葉でした。悪魔の言葉とは、恐怖をともなう甘い誘惑です。
それでは博士が聴き入れた言葉はなんでしょうか。
それは神の呼びかけだと思います。
食べてはいけないといわれた果実を食べてしまったアダムとエバに、神は
「どこにいるのか」
と呼びかけ、たずねました。
博士はこう答えました。
「あなたおのところ、神のもとにいます」と。
ヘロデの悪、闇の言葉に、博士は耳を傾けません。
博士は、神の善、光の言葉に耳を傾けます。
神の愛に、博士は愛をもって応えました。
ここに祈りの基本、本質が秘められています。
三人の博士の帰りの旅路は、わたしたち信仰者の人生、生の道行きでもあるのです。
(長司祭 パウェル 及川 信)